ECの浸透により、オンラインで買えないモノはほとんどないと言っても過言ではない時代が来ています。そんな中、自転車や家具など、大型で形状も特殊な商品を扱うEC事業者が増えてきました。そのような大型商品を取り扱うEC事業において、顧客に商品を最高の状態で確実に届け、収益性を高めるためには、物流業務の高度化と効率化は欠かせません。今回は、大型商品を取り扱うECの物流の特徴を紐解き、アウトソースの効率をより高めるポイントについて考えていきます。
大型商品を取り扱うECの特徴
ECで取り扱いのある大型商品と言えば、主に家具、家電、自転車の3つのジャンルが挙げられます。経済産業省が2020年7月に発表した「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2019年の生活雑貨・家具・インテリアの通販市場規模は1.7兆円で、前年より8.3%増加しています。また、自動車や自動二輪車などの大型商品は2,396億円で、市場規模は全体の2.04%を占めています。
家具類は商品のサイズが大きいため、豊富にラインナップを揃えるにはどうしても売り場や在庫の制約が出てきてしまいます。一方ECは、実店舗では展示しきれない色やサイズ違いの商品を販売できるほか、部屋のコーディネート例なども紹介できるため、実はECと家具は相性の良いカテゴリーと言えます。
最近では、拡張現実(AR)の技術を使い、家具やインテリア商品を部屋に置いたイメージを確認できる機能を提供する事業者も増え始めています。これにより、実物を確認したいユーザーは自分の部屋に適しているかをより把握しやすくなり、ECで家具を購入することに対する抵抗がなくなりつつあります。
さらに、AIを活用してECサイト上で消費者の好みに合った商品を提案する技術も進化しており、キーワード検索では辿り着けなかった商品の提案によって、新たな需要の発掘が期待されています。
大型商品を取り扱うECの物流業務の特徴と実情
では、大型商品を取り扱うECの物流業務にはどのような特徴があるのでしょうか。まず第一に、商材自体が大きく、形状もバラバラということが挙げられます。家電に限って言うと、テレビや冷蔵庫のような大物からバッテリーのような小物類まで同時に扱わなければならず、しかもそれらは精密機器で単価も高いため、専門の業者でなければ取り扱いが難しいのが実情です。また、大型家電において箱は商品を保護するための資材という認識であるのに対し、小物の場合はカラー印刷された化粧箱が採用されているケースがあり、商品の一部と捉えられている節もあります。さらにそれらはサイズも形状もバラバラなので、仕分け作業の効率化が難しく、扱いにくさが目立ちます。
大型商品の中でも特に家電製品における物流業務の難点は、曜日や季節要因による需給の波があるということでしょう。たとえばエアコンなどの空調機器は、購入時期が特定の期間に集中しやすい上、配送や設置に時間がかかります。野村総合研究所が2017年行った「荷主業界ごとの商慣行・商慣習や物流効率化の取組状況の調査報告書~家電編~」によると、家電大型専門店の販売額は年末年始、年度末、夏季に集中していることが分かります。また、来客数は週末がピークになることから、それを受ける物流も必然的に曜日変動が大きくなってしまいます。土日売上→月曜発注→火曜入荷のサイクルが最多であるの対し、金・土・日の入荷は少ないというのが大きな特徴でしょう。
このように変動が激しいことから、物流センターや店舗の荷物受入、荷役が一時的にキャパシティを超えてしまったり、空調等の工事業者の作業キャパシティを越えてしまうケースがあり、物流の滞りや販売機会の損失につながりかねません。中でも物流センターでの荷受能力のオーバーフローは、トラックを長時間待たせることになってしまうなど、切実な問題に直面しています。
大型商品の物流業務は、消費者側の変化も大きく関係しています。共働き夫婦の増加やECでの買い物が主流になった今、宅配ボックスで商品を受け取ることが日常茶飯事になってきました。しかし大型商品は対面でしか受け取れず、配送日の選択肢が狭まってしまいます。これが物流業務のキャパシティをさらに圧迫しているのです。
家電製品の物流の仕組みとしては、国内ないし海外の工場で作られた製品がまずメーカーの国内倉庫に運ばれ、そこから発注に応じて量販店やEC事業者の物流センターに納品されます。各施設の物流はトラック運送事業者(ヤマトホールディングス等)が請け負い、物流センターの運営は利用運送事業者が行っています。
大型商品を取り扱う物流センターは、メーカーであれば自社系列の利用運送事業者、量販店の場合は3PL(サードパーティー・ロジスティクス)に委託するのが一般的で、企業が保有するセンターには大きく2つのパターンがあります。ひとつは在庫型のセンターで、DC(Distribution Center)と呼ばれるもの。DCは倉庫のようなもので、商品の在庫を保有しています。一方、通過型のセンターはTC(TransferCenter)と呼ばれており、在庫を保有する倉庫としての機能は限定的で、仕分けをするための拠点として活用されています。
大型商品を取り扱うECの物流アウトソースで直面する課題
大型商品の物流をアウトソースする場合は、どのような課題が出てくるのでしょうか。ここからは、アウトソースする際にEC事業者が忘れがちな決まり事やよくあるクレーム、課題について紹介していきます。
保管スペース
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まず第一に、扱う商材が大型ゆえ、倉庫の保管スペースをどう確保するかという問題が出てきます。また、大型とひと言で言ってもサイズはまちまちで、~260サイズ、~450サイズなど、サイズに合わせた配送メニューに対応する必要があります。特に家電の取り扱いは繊細なため、ダメージ等への対応も必須になってきます。
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梱包 |
併せて梱包の問題も浮上するでしょう。メーカー側は従来、家電の包装材は商品を保護するものとして扱い、商品にダメージがなければ外箱の凹み等は多少であれば構わないとしてきました。しかし最近では、小型家電の一部高級化やそれに伴う包装材の化粧箱化が進み、包装材も商品の一部として見なす小売店が増加しています。これに伴い、配達の際には剥がしてしまうような大型家電の包装材のダメージまで厳しく見られるようになり、認識にギャップが生じています。また、家電の贈答需要の増加に伴い、外装も商品の一部として扱われるようになりました。これに伴い、外装ダメージに対しても消費者の目が敏感になり、クレームにつながっています。
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設置・組立・各種工事対応 |
大型商品の中でも多くのシェアを占める家電は、配送だけでなく、設置・組立・各種工事にも対応しなければなりません。これにより、日程調整というハードルが立ちはだかります。さらに昨今は、冷蔵庫やエアコン等の大型白物家電やテレビなどの高機能化・操作の複雑化が進んでおり、設置や配線のみならず、商品説明へのニーズが増加しています。
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家電リサイクル法対応 |
大型商品の配送は、運んで終わりというわけにはいきません。家電はリサイクル法に対応しなければいけませんし、家具であれば不要家具の引き取りというオプションが付いてきます。
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曜日・季節要因需給に合わせた波動対応 |
前述した通り、家電に関しては曜日や季節要因需給に合わせた波動対応が必須になってきます。そのため、繁忙期だけ物流スタッフの人数を増やして人海戦術で切り抜けるなど、何かしらの工夫が必要です。
佐川急便では、昨今の流れを汲んで大型家具・家電設置輸送サービスの料金等を変更すると2020年5月に発表しました。6月以降は設置料金の名称を配送料金に変更し、配送料金のサービス範囲を軒先までの配送に限定。簡易的な設置や梱包資材の持ち帰り等の作業は、オプションとして15分1,650円の付加作業料金で引き受けています。 |
大型商品を取り扱うECの物流アウトソースでより効率を上げるために考えるべきポイント
大型商品を取り扱うECの物流をアウトソースした際に、どのような点に気を付けると効率が上がるのでしょうか。効率アップのポイントを考えていきましょう。
効率アップにおいてやはり一番大きな割合を占めるのが需給波動対応です。大型商材は保管スペースを取り、配送料金も高額な上に、そもそもピーク時は配送キャパシティの確保が難しいことから、自社投資の場合は閑散期に余剰を抱えるケースが多くなってしまいます。そのため、アウトソーシングでこれを変動費化させることが有効と言えるでしょう。
自社運用での大型配送の場合、販売拡大のボトルネックは保管スペースの問題だけでなく、大型の荷物を出荷作業する従業員の体力やモチベーションの問題も出てきます。回転数の良い商品を入れれば保管効率は上がりますが、出荷作業自体に限界が来てしまう場合があります。
大型商品を取り扱うECの物流アウトソース先を切り替える際の判断基準
アウトソース先の切り替えを検討するタイミングの多くが、販売量が一気に増加した時です。大型商品はただでさえ物流がパンクしがちなので、それに加えて取扱個数が増加してしまうと従来のアウトソース先では対処しきれなくなります。そこで、低コストで受注出荷業務をより自動化できる物流プラットフォームや、提携倉庫数が多く全国をカバーしている物流業者を再度検討しましょう。送料の急騰によって事業が圧迫されている場合は、複数倉庫をコントロールし、最寄りの倉庫から分散出荷してくれる物流アウトソース先を選んでみてください。